6. 理論

6.1. PDF解析

構造モデルから計算されるPDF解析に関わる関数を説明する。 ここでいう構造モデルとは、周期境界条件を仮定する原子配置データを意味する。

6.1.1. 部分二体分布関数 \(g_{\alpha\beta}(r)\)

下図に示されるように、ある原子を中心として他の原子が周りに存在する場合を考える。

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図 6.1 動径分布の概念図

1元系の構造モデルを仮定する場合、中心原子(青色)から半径 \(r\)\(r+dr\) の微小半径で挟まれた領域に存在する原子(赤色) の数の期待値 \(dn(r)\) は二体分布関数 \(g(r)\) を用いて以下の式で表される。

\[dn(r) = \frac{N}{V} g(r) 4 {\pi} r^2 dr\]

上式を変形することによって、二体分布関数 \(g(r)\)

\[g(r) = \frac{dn(r) V} {4 {\pi} r^2 dr N}\]

と計算される。 ここで \(r\) は注目する原子からの距離、 \(N\) はセル内の原子数、 \(V\) はセルの体積である。

2元系以上の場合、元素のペアを考える必要がある。一方の原子を \(\alpha\) 、他方の原子を \(\beta\) とする場合、中心原子 \(\alpha\) および周辺原子 \(\beta\) の部分二体分布関数 \(g_{\alpha\beta}(r)\) は以下の式で計算される。

\[g_{\alpha\beta}(r) = \frac{dn_{\alpha\beta}(r) V} {4 {\pi} r^2 dr N_{\alpha}}\]

ただし、 \(N_{\alpha}\) は原子 \(\alpha\) の数、 \(dn(r)\) は中心原子 \(\alpha\) から半径 \(r\)\(r+dr\) の微小半径で挟まれた領域に存在する原子 \(\beta\) の数の期待値である。

6.1.2. 二体分布関数 \(g(r)\)

二体分布関数 \(g(r)\) は、部分二体分布関数 \(g_{\alpha\beta}(r)\) を用いて以下のように計算される。

\[g(r) = \dfrac{\sum_{\alpha}^{}\sum_{\beta}^{}c_{\alpha}c_{\beta}f_{\alpha}f_{\beta}g_{\alpha\beta}(r)} {\langle f^2 \rangle}\]

ここで \(c_{\alpha}\) は原子 \(\alpha\) の濃度( \(c_{\alpha}=N_{\alpha}/N\) )である。また、\(f_{\alpha}\) は原子 \(\alpha\) の散乱因子であり、X線回折の場合 \(Q\) に依存する値である。一方、中性子回折の場合に \(f_{\alpha}\) は散乱長であり、 \(Q\) に依存しない。これらの詳細を、下記の構造因子 \(S(Q)\) の節で述べる。また、分母は正規化項であり

\[\langle f^2 \rangle = \left(\sum_{\alpha}^{} c_{\alpha}f_{\alpha}\right)^2 = \sum_{\alpha}^{}\sum_{\beta}^{} c_{\alpha}c_{\beta}f_{\alpha}f_{\beta}\]

と計算される。X線回折の場合、\(Q\) ごとに正規化項の計算が必要となる。

6.1.3. 部分構造因子 \(S_{\alpha\beta}(Q)\)

部分構造因子 \(S_{\alpha\beta}(Q)\) は、部分二体分布関数 \(g_{\alpha\beta}(r)\) の フーリエ変換で求めることができ、以下の式で計算される。

\[S_{\alpha\beta}(Q) = 1 + 4 {\pi} {\rho} \int \frac{\sin(Qr)}{Qr} (g_{\alpha\beta}(r)-1) r^2 dr\]

ただし、 \(\rho\) は原子の数密度( \(\rho=N/V\) )である。

6.1.4. 構造因子 \(S(Q)\)

構造因子 \(S(Q)\) は、部分構造因子 \(S_{\alpha\beta}(Q)\) を用いるFaber-Ziman型 [1] で計算される。

\[\begin{split}S(Q) &= 1 + \dfrac{1} {\langle f^2 \rangle} \sum_{\alpha}^{}\sum_{\beta}^{}c_{\alpha}c_{\beta}f_{\alpha}f_{\beta} (S_{\alpha\beta}(Q)-1) \\ &= \dfrac{1} {\langle f^2 \rangle} \sum_{\alpha}^{}\sum_{\beta}^{}c_{\alpha}c_{\beta}f_{\alpha}f_{\beta} S_{\alpha\beta}(Q)\end{split}\]

上式において、 \(f_{\alpha}\)\(f_{\beta}\) として、X線回折の場合にX線散乱因子 (X-ray scattering factor)、 中性子回折の場合に中性子散乱長(Neutron scattering length)が用いられる。 X線散乱因子は、以下の近似計算が用いられることが多い。

\[f(Q) = \sum_{i=1}^{5}a_i \exp \left(-b_i \left(\dfrac{Q}{4\pi}\right)^2 \right) + c\]

ただし、上式における元素ごとの定数 \(a_i, b_i, c\) には文献 [2] の記載データ等が使われる。

また、中性子散乱長は、\(Q\) に依存しない値であり、元素ごとに定まる定数が用られる。中性子散乱長の具体的な値に関しては WikipediaNICTのDB を参照いただきたい。

6.1.5. 減衰二体分布関数 \(G(r)\)

減衰二体分布関数 \(G(r)\) (reduced PDF)は、二体分布関数 \(g(r)\) を用いて以下の式で計算される。

\[G(r) = 4 {\pi} r \rho [g(r)-1 ]\]

6.1.6. 全相関関数 \(T(r)\)

全相関関数 \(T(r)\) (total correlation function)は、二体分布関数 \(g(r)\) を用いて以下の式で計算される。

\[T(r) = 4 {\pi} r {\rho} g(r)\]

6.1.7. 動径分布関数 \(N(r)\)

動径分布関数 \(N(r)\) (Radial Distribution Function, RDF)は、全相関関数 \(T(r)\) を用いて以下の式で計算される。

\[N(r) = r T(r) = 4 {\pi} r^2 \rho g(r)\]
[1] E. Faber and J. M. Ziman, Phil. Mag., 11 (109), 153–173, (1965).
[2] D. Waasmaier and A. Kirfel, Acta Cryst. A51, 416–431 (1995).